■1. ストレスチェック制度とは
ストレスチェック制度とは、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止やストレスの原因となっている職場環境の改善を目的として、常時使用する労働者の心理的な負担の程度を把握するため、医師等による検査を行う制度のことです。
常時50人以上の労働者を使用する事業場(法人単位ではありません)では、実施が義務づけられています。
なお、50人未満の事業場は、当分の間、努力義務とされています。
検査の結果、一定の要件を満たす労働者から申し出があった場合、事業者は、医師による面接指導を受けさせた上、その結果に基づいて、必要に応じて就業上の措置を講じなければなりません。
(労働安全衛生法第66条の10)
■2. 派遣労働者に対するストレスチェック
設問では、派遣元と雇用契約を結んでいる派遣労働者が50人以上いますので、派遣元事業主は、ストレスチェックを実施する義務があります。
派遣先Xには、正規社員が40人しかいませんが、事業場の人数の数え方は、派遣労働者を含めてカウントします。したがって、40人+20人=60人ですので、常時50人以上の労働者を使用する事業場となり、派遣先Xは、40人の正規社員に対して、ストレスチェックを実施する義務があります。
派遣先Xは、派遣労働者20人に対しては、ストレスチェックを実施する法的義務はありません。しかし、指針では、「集団ごとの集計・分析については職場単位で実施することが重要であるから、派遣先は派遣先事業場における派遣労働者も含めた一定規模の集団ごとにストレスチェック結果を集計・分析するとともに、その結果に基づく措置を実施することが望ましい」とされています。したがって、設問の場合には、派遣先においても、派遣元とは別途、自社の労働者40人と合わせて派遣労働者20人に対するストレスチェックを実施するとともに、職場の集団ごとの集計・分析を実施することが望ましいです。
(平成27年4月15日「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」公示第1号/最終改正・平成30年8月22日公示第3号)
■3. 指針で定める、その他の派遣労働者に関する留意事項(参考)
2.以外に、指針では次の(1)~(3)の派遣労働者に対する留意事項を定めています。
- 面接指導に必要な情報の収集に関する留意点
派遣元は、面接指導が適切に行えるよう、派遣先管理台帳に記載事項の通知義務(派遣法第42条3項)に基づき、派遣先から通知された派遣労働者の労働時間に加え、必要に応じ、派遣先に対しその他の勤務状況又は職場環境に関する情報について提供するよう依頼し、派遣先は派遣元から依頼があった場合には必要な情報を提供すること。 - 派遣労働者に対する就業上の措置に関する留意点
派遣元が、派遣労働者に対する面接指導の結果に基づき、医師の意見を勘案して派遣労働者に対する就業上の措置を講じるに当たって、派遣先の協力が必要な場合には、派遣元は、当該派遣労働者の同意を得た上、派遣先に対して協力を要請することとし、派遣先は要請に応じ必要な協力を行うこと。 -
派遣先による不利益取扱いの禁止
派遣先は、次のような不利益取り扱いを行ってはなりません。- 面接指導の結果に基づく派遣労働者の就業上の措置について、派遣元から協力要請があったことを理由として、派遣先が当該派遣労働者の変更を求めること。
- 派遣元が派遣労働者の同意を得て、派遣先に派遣労働者のストレスチェック結果を提供した場合、これを理由として、派遣先が当該派遣労働者の変更を求めること。
- 派遣元が派遣労働者の同意を得て、派遣先に派遣労働者の面接指導の結果を提供した場合、これを理由として、派遣先が、派遣元が聴取した医師の意見を勘案せず、又は当該派遣労働者の実情を考慮しないで、当該派遣労働者の変更を求めること。
- 派遣先が集団ごとの集計・分析をおこなうことを目的として派遣労働者に対してもストレスチェックを実施した場合において、ストレスチェックを受けないことを理由として、当該派遣労働者の変更を求めること。
■4. 労働基準監督署への報告義務
派遣先事業場において、派遣労働者にもストレスチェックを実施した場合、労働基準監督署への報告は、法律に定められている義務が適切に履行されているかどうかを確認するためのものですから、設問の場合には、報告義務の対象となっているのは、40人の正社員についてのみとなります。派遣先Xにおける派遣労働者20人については、報告する必要はありません。
「在籍労働者数」とは、ストレスチェックの実施時点で常時雇用する労働者数のことです。設問では、正社員の40人が該当します。「検査を受けた労働者数」は、ストレスチェックの実施義務の対象となっている者のうち、ストレスチェックを受けた人数となりますので、派遣労働者がストレスチェックを受けていたとしても、報告人数に含める必要はありません。
(厚生労働省ホームページ:平成28年8月30日「ストレスチェック制度関係Q&A」)
(弁護士 江上千惠子氏 執筆・補正)