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労働者派遣講座 > 派遣先の方へ > 【3】派遣労働者を受入れているとき Q13 ハラスメントと派遣先の措置義務

派遣労働者を受入れているとき

ハラスメントと派遣先の措置義務
解説

1. 適正な就業環境の確保

労働者派遣事業は、派遣労働者がその雇用されている派遣元事業主ではなく、派遣先から指揮命令を受けて労働に従事するという形態で事業が行われます。したがって、派遣労働者の保護を図るためには、現実の就業場所である派遣先において派遣労働者の適正な就業環境が確保され、派遣労働者が派遣先で指揮命令を受けることに伴い生じた苦情等が適切かつ迅速に処理されることが必要です。

2. 派遣先のハラスメント防止措置義務

労働者派遣の役務の提供を受ける者がその指揮命令の下に労働させる派遣労働者の当該労働者派遣に係る就業に関しては、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者もまた、当該派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、ハラスメント防止措置義務を負います(派遣法第47条の2)。

なお令和元年5月29日、労働施策総合推進法の改正がなされ(施行:令和2年6月1日)パワハラに関する事業主の措置義務が明記され、併せて雇用機会均等法及び育児・介護休業法も一部改正され、今までの職場でのハラスメント防止対策の措置に加えて、相談したこと等を理由とする不利益取扱い禁止等、ハラスメント防止対策が強化されました。

(雇用機会均等法第11条・11条の3、労働施策総合推進法第30条の2、育児・介護休業法第25条)

3. 指針で定められている事業主が講ずべきハラスメント防止措置のポイント

労働者派遣の役務の提供を受ける派遣先は、その雇用する労働者と同様に派遣労働者に対しても、下表の①~⑩のハラスメント防止措置を講じなければなりません。

⑪の「職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置」とは、業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ必要な措置を講ずることですので、派遣元事業主のみが義務を負い、派遣先は法的義務を負いません。

事業主がハラスメントに対し講ずべき措置義務一覧表

  パワハラ防止措置 セクハラ防止措置 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止措置
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • パワハラの内容
  • パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
  • セクハラの内容
  • セクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
  • 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの内容
  • 妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動が職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景になり得ること
  • 妊娠・出産・育児休業等に関する行ってはならない旨の方針
  • 制度等の利用ができることを明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
相談窓口担当者が、内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること。ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。
職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
事実関係の確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。裁判例後記4.参照。
再発防止に向けた措置を講ずること。
併せて講ずべき措置
相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること。
事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したこと等を理由として、解雇その他不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置。
※派遣の場合、派遣元事業主のみが措置義務を負う。

(パワハラ指針 令和2年厚生労働省告示第5号)(セクハラ指針 平成18年厚生労働省告示第615号 最終改正:令和2厚生労働省告示第6号)(妊娠・出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針 平成28年厚生労働省告示第312号 最終改正:令和2厚生労働省告示第6号)(育児・介護指針 平成21年厚生労働省告示第509号 最終改正:令和2厚生労働省告示第6号)

4. 派遣労働者に対するセクハラについて、派遣先が派遣先の社員に対し下した懲戒処分を有効とした最高裁判所判例(海遊館事件《最判平成27.2.26》)

職場で派遣労働者に対して、性的な発言等をした派遣先社員(管理職)に対する懲戒処分の有効性が争われたもので、最高裁判所は、懲戒処分を妥当とし、その有効性を認めました。この事案における派遣先は、職場におけるセクハラ禁止の方針を、就業規則等で明確にし、防止等に関する研修を全従業員に義務付け、相談窓口を設置し、真摯にセクハラ対策に取り組んでいた事実が、最高裁判所判決の判断のポイントのひとつとなっています。

派遣先にとって、セクハラ・パワハラに対する取組の重要性を認識させる最高裁判所判決ですので、実務的に重要です。

(弁護士 江上千惠子氏 執筆・補正)

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