■1. 派遣と「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム・有期雇用労働法」という。)の適用
派遣元事業主は、派遣労働者についてもパートタイム・有期雇用労働法の適用があることに留意しなければなりません。
(派遣元指針第2の8の(3)のイ)
なおパートタイム労働法第8、9条と労働契約法第20条が改正され、両者が合体し、法律の名称が変り、正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差の禁止等主な規定が、2020年4月1日から施行されました(中小企業については、2021年4月1日施行)。
その結果、労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)は、パートタイム・有期雇用労働法第8条に移り、有期契約とパートにおいて不ぞろいであった正規と非正規の均等・均衡待遇の保障がより明確となり、強化(自由な労働契約への介入)されました。なお改正前の労働契約法20条は削除され、改正前の労働契約法21条が20条に繰り上がりました。また、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(30.12.28厚生労働省告示430)と通達(平31.1.30基発0130第1)が出ています。
■2. 有期雇用派遣労働者と無期雇用派遣労働者の通勤手当
有期雇用派遣労働者の通勤手当に係る労働条件が、期間の定めがあることにより、同一の派遣元事業主と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の通勤手当に係る労働条件と相違している場合、当該労働条件の相違は、パートタイム・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇の禁止)の規定により、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはなりません。
したがって、通勤手当に差異を設ける合理的理由が無い限り、派遣元事業主の取扱いはパートタイム・有期雇用労働法第8条に違反し違法です。無期労働者と有期労働者で通勤手当支給について差異を設ける合理的理由は、通常ないと考えます。
(派遣元指針第2の8の(3)のハ)
■3. 違反の場合の派遣元事業主の責任
「不合理」とされた労働条件の定めは無効となり、故意・過失による権利侵害による損害賠償が認められる可能性があります。
また、無効とされた労働条件については、基本的には、無期雇用者と同じ労働条件が認められると解されます。(平成24年8月10日基発0810第2号労働契約法施行通達 最終改正:平成27年3月18日)
■4. 不合理な待遇差をめぐる代表的な2つの最高裁判所裁判例(参考)
- ハマキョウレックス事件(最判平30.6.1)
運送会社でドライバーとして働く契約社員(有期雇用労働者)と職務内容が同一である正社員(通常の労働者)のドライバーとの間の待遇差が問題となり、最高裁判所は、通勤手当や皆勤手当等について不合理とする判断を下しています。通勤手当については、 「労働契約期間に定めがあるか否かによって通勤に必要な費用が異なるわけではない。正社員と契約社員の職務の内容・配置の変更の範囲が異なることは、通勤に必要な費用の多寡には直接関係がないので不合理。」と判断しています。 - 長澤運輸事件(最判平30.6.1)
運送会社でドライバーとして働き、定年後に再雇用された嘱託社員(有期雇用労働者)が、職務の内容が同じである正社員(通常の労働者)のドライバーとの間の待遇差が問題となり、最高裁判所は、精勤手当、時間外手当について不合理であるとする判断を下しています。
(弁護士 江上千惠子氏 執筆・補正)