■1. 派遣労働者に対するキャリアアップ措置の意義
派遣労働者は、一般に正規労働者に比べ、教育訓練の受講機会確保等職業能力形成の機会が乏しいです。
そこで、派遣法は、派遣元事業主が派遣労働者のキャリア形成を支援する制度(厚生労働大臣が定める基準を満たすものに限ります。)を有することを労働者派遣事業の許可要件のひとつとしています。
また、派遣元事業主は、派遣労働者に対する段階的かつ体系的な教育訓練及び希望者に対するキャリア・コンサルティングを実施しなければならないことを規定しています。
(派遣法第30条の2第)
なお、キャリアアップ支援は、派遣労働者の正社員化や賃金等の待遇改善という成果につながることを目的とするべきであり、派遣労働者の賃金表に反映させることが望ましいです。
■2. 教育訓練計画の要件
派遣元事業主は、次の①~⑤の要件を全て満たす教育訓練計画を作成し、都道府県労働局に提出し、この計画に基づいて教育訓練を実施する必要があります。
- 派遣元事業主に雇用されている派遣労働者全員を対象とするものであること。
(日雇派遣労働者に対するキャリアアップ措置については、基礎知識12を参照)
- 有給、無償で実施されるものであること。
- 派遣労働者のキャリアアップに資する内容のものであること。
派遣先に協力を求める場合は、労働者派遣契約等において具体的な時間数や必要とする知識の付与や訓練方法等について教育訓練計画に記載しておくことが必要です。
- 入職時の訓練が含まれたものであること。
派遣労働者一人あたり、少なくとも最初の3年間は毎年1回以上の機会の提供が必要であり、最初の3年間を過ぎた後の提供の時期については、事業主の裁量に委ねられます。
なお、「最初」とは、雇用開始時点のことです。
1年以上の雇用見込みのある者について、フルタイム勤務の者に対しては、毎年概ね8時間以上の訓練機会の提供が必要です。短時間勤務の者に対しては、フルタイム勤務の者の勤務時間に比した時間の訓練機会を提供しなければなりません。1年以上の雇用の見込みがない者については、少なくとも入職時の訓練は実施しなければなりません。
- 無期雇用派遣労働者に対しては、長期的なキャリア形成を念頭に置いた内容であること。
(業務取扱要領第6の3)
■3. 派遣元指針で定める「段階的かつ体系的な教育訓練に関する留意点」
派遣元事業主は、次の措置を行うことが望まれます。
- 労働契約締結時までに教育訓練計画を明示し、事務所に備え付ける等の方法で周知することが望ましいこと。
- 可能な限り派遣労働者が受講しやすいものとすることが望ましいこと。
- 2.の要件を満たした教育訓練実施のみならず、さらなる教育訓練を自主的に実施することが望ましいこと。その際派遣労働者の費用負担を実費程度とすることが望ましいこと。
- 教育訓練を行った日時及びその内容等を記載した書類を保存するよう努めること。
(平成11年労働省告示137号、最終改正:平成30年厚生労働省告示427号)
(弁護士 江上千惠子氏 執筆・補正)