■職場におけるセクハラとは
職場におけるセクハラに関しては、均等法第11条でセクハラの定義がされています。雇用の場におけるセクハラとは、「職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動で、それに対する労働者の対応により仕事を遂行するうえで、一定の不利益を受けたり、就業環境が害されること」です。セクハラは、男女雇用機会均等法(以下「均等法」という。)により、事業主が防止(従業員への周知・啓発や苦情・相談窓口の設置等)するよう義務付けられています。
■派遣におけるセクハラ等に関する基本的な考え方
均等法においては、「事業主は自己の管理する事業場においてセクハラが起きないよう、雇用管理上必要な措置を講じなければならない」とされています(均等法第11条)。派遣労働においては、「雇用主である派遣元だけではなく、派遣先も、雇用管理上及び指揮命令上、必要な措置を講じなければならない」とされ(派遣法第47条の2)、セクハラに関しても防止する義務があります。
■「性的な言動を行う者」
令和元年6月5日に女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律が公布され、均等法及び育児・介護休業法が改正され(令和2年6月1日施行)、セクハラ等の防止対策が強化されました。
「性的な言動を行う者」について、労働者を雇用する事業主(その者が法人である場合にあってはその役員。)、上司、同僚に限らず、次の①~④の者が含まれることが明確になりました。
- 取引先等の他の事業主又はその雇用する労働者
- 顧客
- 患者又はその家族
- 学校における生徒等
■セクハラの分類
セクハラは、対価型セクハラと環境型セクハラとに分類されます。
- (1)対価型セクハラ
- 「対価型セクハラ」とは、職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることを言います。例として次のようなものがあります。
- 事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇する等不利益取り扱いをしたケース
- 出張中、乗用車内において上司が労働者の体に触ったが、抵抗された。以後、その労働者に不利益な配置転換を行ったケース
- (2)環境型セクハラ
- 環境型セクハラとは、職場において行われる性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなり、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを言います。典型的な例として次のようなものがあります。
- 事務所内において、しばしば上司が労働者の腰、胸等を触るため、苦痛に感じた労働者の就業意欲が低下したケース
- 同僚が取引先で労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布した。その後、苦痛に感じた労働者が仕事に手がつかなくなったケース
■派遣元及び派遣先が講じなければならない措置
(事業主が職場における性的言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号・最終改正令和2年厚生労働省告示第6号))では、事業主(派遣元及び派遣先)が講じなければならない措置として、次のように示しています。
- 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
例えば、就業規則へ規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発することが考えられます。
- 相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な対応の整備
本設問のように、派遣労働者から派遣先におけるセクハラについて苦情の申出があった場合、派遣先は、当該苦情の内容を派遣元事業主に通知するとともに、派遣元事業主との密接な連携の下に、誠意をもって、遅滞なく、当該苦情の適切かつ迅速な処理を図らなければなりません。
(派遣法第40条第1項、先指針第2の7)
- 職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
例えば、セクハラに関する事実確認後、就業規則に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずることが考えられます。
- 1~3までの措置と併せて①及び②の措置
- 相談・苦情への対応、事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。
- 労働者が、セクハラに関する相談・苦情申入れをしたこと等を理由として、不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知啓発すること。
派遣労働者から苦情の申出を受けたことを理由として、当該派遣労働者に「不利益な取扱い」をすることは禁じられています。「不利益な取扱い」とは、苦情の申出を理由として、当該派遣労働者が処理すべき業務量を増加させるような派遣労働者に対して直接行う行為だけでなく、苦情の申出を理由として、派遣元事業主に対して派遣労働者の交代を求める行為や、派遣元事業主との労働者派遣契約の更新を行わないような派遣労働者の不利益につながる間接的行為が含まれます。
- セクハラについて他社からの協力要請に応じる努力義務
改正均等法(令和2年6月1日施行)により、自社の労働者等による他社の社員に対するセクハラについて、他社から事実関係の確認等の協力を求められた場合には、これに応ずるよう努力しなければならない義務が均等法11条3項に新設され、セクハラ指針も改正されました。
(セクハラ指針 平成18年厚生労働省告示第615号 最終改正:令和2年厚生労働省告示第6号)
(弁護士 江上千惠子氏 補正)