パート社員を活用している事例を知りたい
4.モチベーションを上げたい
サービス業…介護・看護
労働条件を守り、パート社員の事情を考慮して管理することがパート社員定着の第一歩
■人材不足職場での失敗談
ある介護福祉施設でのエピソードです。募集しても応募がなく、なかなか採用できなかった看護師の採用がようやく決まりました。パート社員としての採用となりました。初出社した当日のこと。施設長の「あれもお願いしよう」「この問題も一緒に考えたい」という積もり積もった思いが、一気に出てしまったのです。入社初日の午前中から、施設内をあちこちに連れ回し、仕事の説明に没頭。結果的に、新人パート社員に昼休みもろくに取らせず、初日から所定の終業時刻をオーバーする結果となってしまいました。
翌日、その新人パート社員が所定の始業時刻になっても出勤してきません。交通遅延かと30分待ったものの連絡がなく「これはおかしい」と思った施設長が、パート社員本人の携帯電話に連絡を入れて、思わず声を失いました。「辞めさせてほしい」と言うのです。慌てて理由をたずねると、「面接のときと話が違う。パート社員で採用されたのに、フルタイムの仕事を求められる。自分にはとても勤まらない」。こう言って電話を切ろうとするのを止めて、重ねて質問をしてみると「結婚し、家事との両立を図るため夜勤等のないパート看護師に応募したのに、初日からあの調子では、先が思いやられる」と言います。施設長は前日のことをわび、今後の改善も誓いましたが、彼女にすでに聞く耳はなく、結局二度と出勤してきませんでした。
■臨機応変なシフト対応で、定着促進
一方、シフトに関する臨機応変な対応が、パート社員の定着率を高めている例もあります。ある医療施設に勤務する主婦パートTさんはこう言います。「以前も医療施設に勤務していましたが、シフトの融通が利かないことから退職しました。人が足りないという事情もあったと思いますが、かなり強引なやり方で希望とは異なるシフトを組まれ、みんな疲れきっていましたね。そんな状態だったので、突然休む人も多くてその穴埋めも大変で残業もあたりまえでした。でも、今のところは違います。」
施設のマネジャーを中心にスタッフ間のコミュニケーションがとれているので、子どもが急に熱を出したときなど、子の看護等休暇を取得しても、同僚がフォローしてくれるそうです。また、お互いに有給休暇を取得し、リフレッシュして仕事に臨める環境だといいます。
勤務シフトなどを決めるときには、できるだけ個々の事情を考慮することが大切です。職場の事情ばかり優先してしまうとパート社員のモチベーション低下につながり、最悪の場合、退職という事態を引き起こしてしまいます。
厚生労働省は、令和4年1月7日 、適切な労務管理を促すことで、労働紛争を予防し、労使双方にとってシフト制(※)での働き方をメリットのあるものとするため、使用者が留意すべき事項を示した「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の 適切な雇用管理を行うための留意事項」を公表しました。
※この留意事項で、「シフト制」とは、労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務シフトなどで、初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態を指します。ただし、三交替勤務のような、年や月などの一定期間における労働日数や労働時間数は決まっていて、就業規則等に定められた勤務時間のパターンを組み合わせて勤務する形態は除きます。
(1)労働条件の明示
シフト制では、以下の点に留意しましょう。
労働契約の締結時点で、すでに始業と終業の時刻が確定している日については、労働条件通知書などに単に「シフトによる」と記載するだけでは不足であり、労働日ごとの始業・終業時刻を明記するか、原則的な始業・終業時刻を記載した上で、労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等を併せて労働者に交付する必要があります。また、休日についても、具体的な曜日等が確定していない場合でも、休日の設定にかかる基本的な考え方などを明記する必要があります。
(2)シフト制労働契約で定めることが考えられる事項
トラブルを防止する観点から、シフト制労働契約では、シフトの作成・変更・設定などについても労使で話し合って以下のようなルールを定めておくことが考えられます(作成・変更のルールは、就業規則等で一律に定めることも考えられます)。
①労働時間、休憩
労働時間の上限は原則1日8時間、1週40時間であり、この上限を超えて働かせるには三六協定が必要です(労働基準法32条、36条)。
1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、勤務時間の途中で与えなければなりません(労働基準法34条1項)。
②年次有給休暇
所定労働日数、労働時間数に応じて、労働者には法定の日数の年次有給休暇が発生します(労働基準法39条3項、同施行規則24条の3)。使用者は、原則として労働者の請求する時季に年次有給休暇を取得させなければなりません(労働基準法39条5項)。
「シフトの調整をして働く日を決めたのだから、その日に年休は使わせない」といった取扱いは認められません。
③シフトの作成時に、事前に労働者の意見を聞くこと
④シフトの通知期限・通知方法を定める
⑤一旦確定したシフトの労働日、労働時間をシフト期間開始前に変更する場合の手続き等※(使用者や労働者が申出を行う場合の期限や手続・シフト期間開始後、確定していた労働日、労働時間をキャンセル、変更する場合の期限や手続)
※一旦確定した労働日や労働時間等の変更は、基本的に労働条件の変更に該当し、使用者と労働者双方の合意が必要です。
⑥労働者の希望に応じて以下の内容についてあらかじめ合意することも考えられます。
- 一定の期間中に労働日が設定される最大の日数、時間数、時間帯
- 一定の期間中の目安となる労働日数
- 一定の期間において最低限労働する日数、時間数などを定める
厚生労働省「「シフト制」労働者の雇用管理を適切に行うための留意事項」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000870906.pdf