パート社員を活用している事例を知りたい
はじめに
パート社員(※)の存在感が、年々高まってきています。スーパーや飲食店などパート社員比率の高い職場では、すでに「パート社員抜きには経営が成り立たない」ほどになっています。そればかりか、パート店長やパートリーダーの存在すら、もはや珍しくありません。(※パートタイム・有期雇用労働法の「短時間労働者」にくわえ、職場でパートと呼ばれている人を含めて「パート社員」と表記しています。)
また、これまでパート社員に関心の薄かった会社でも、「もっと意図的にパート社員を活用していきたい」「パート社員をしっかりとした戦力に育てたい」と考え始めているようです。
しかしパート社員を頼りになる自社戦力としていくためには、マネジメントの工夫が必要です。
そこで、まずはその基礎となる制度について、「人事制度」「教育訓練制度」「賃金制度」の3つを解説します。あわせてパート社員活用先行企業のモデルケースをご覧になり、「自社流のパート社員活用」を具体化させるヒントとしてください。
人事制度
パート社員はこれまで、「人件費が安いから」「雇用調整がしやすいから」「正社員より簡単に採用できるから」といった理由で、雇用されることの多い労働力でした。
しかし、パート社員だからと安易に雇用するのではなく、パート社員を企業業績に資する戦力の一つと明確に位置付けて「活用し」「戦力化していく」ことが大事です。
そこで必要になるのが、パート社員の人事制度です。
正社員を雇用していながら、人事制度がまったくないという会社は、少ないと思います。資格等級制度、評価制度、賃金制度、能力開発制度などから構成される人事制度は、社員を一定の規則にのっとって公正に処遇し、モチベーションを高め、その力を引き出していくために、必要不可欠だからです。
一方、パート社員を雇用していていも、パート社員用の人事制度を持っている会社は少数派です。しかし、正社員と同じようにパート社員を活用し戦力化していきたいなら、パート社員にも人事制度を設けることが大事です。何の仕組みもなく、行き当たりばったりな人事管理では、思うような戦力に育つわけがないからです。
もちろん、パート社員の人事制度は、正社員ほど複雑な制度にする必要はありません。正社員なら、学校出たての新卒新入社員から定年近い部長まで役割や仕事の内容はさまざまですが、パート社員の場合、役割や仕事の内容が、ここまで違うことは、ほとんどないからです。
半面、パート社員の人事制度を作る際、意識しなくてはならないこともあります。それは、同じ職場で働く正社員とのバランスです。
パートタイム・有期雇用労働法により、事業主は、同一企業内において、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、正社員とパート社員との間で、「賃金」「教育訓練」「福利厚生」などすべての待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されています(第8条)。また、事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一のパート社員であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が正社員の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、パート社員であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはなりません(同9条)。制度設計の際には、自社のパート社員に担わせている業務や責任をよく見て、正社員との均衡・均等をはかった処遇としていくことが必要です。
教育訓練制度
パート社員に対する教育訓練は、仕事の効率化や、マンネリ化防止に役立ちます。パート社員自身の向上心をかき立て、働く満足につながります。教育訓練によってスキルアップしたり、違う仕事にチャレンジしたりできると、仕事を通じて「成長している」実感が得られるからです。
第一、会社としても、パート社員が「いつまでたっても新人同様」では困ります。そこで大切になるのが、パート社員の教育訓練制度です。
パートタイム・有期雇用労働法により、事業主は、正社員と職務が同じパート社員に対して、職務遂行に必要な能力を付与する訓練を通常の労働者と同様に実施しなければなりません。パート社員が既に必要な能力を身に付けている場合には、改めて訓練を実施することまでは求められていません。そのため、採用したパート社員がどのような職務遂行能力を有しているかについて、採用担当者のみならず現場においても把握することが重要です。また、他社で同様の職務に従事した経験があるとか他社で正社員経験があるからといっても、ブランクなどがあれば、現状で通用する職務遂行能力が身についているとは限りません。スキルチェックを実施したうえで訓練対象とするかどうかを判断しましょう。
パート社員は所定労働時間が短いことから時間の制約があり、正社員に対して実施している教育訓練に参加できない場合もあります。そういった場合には、例えば、その教育訓練を受講すれば平均的に身に付けられる知識、技能などと同様の内容を習得できる教育訓練をパート社員が受講できるような形で別途提供する必要があります。
これ以外のパート社員すなわち職務内容が正社員とは同じではないパート社員に対しては、正社員との均衡を考慮しつつ、職務の内容、成果、意欲、能力、経験等に応じて教育訓練を行うよう努めなければならないとされています(第11条)。
また、職務遂行に必要な能力を付与する訓練以外の教育訓練、例えば職種転換のためのキャリアアップ訓練などについては、 職務の内容の違いの有無にかかわらず、パート社員の職務の内容、職務の成果、意欲、能力及び経験その他の就業の実態に関する事項に応じ、実施することが努力義務とされています。
パート社員の教育訓練制度は、たとえシンプルな設計であったとしても制度として立ち上げ、これにのっとって行うことが大事です。きちんと制度化することで、教え漏れや、成長のばらつきが抑えられます。「教育訓練制度を作る」というと、何やらおおごとのようにきこえますが、要は「何を」「いつ」「だれが」「どのように」教えるかを明確にすることです。また、実際に、そのとおり全員に均等に教えていきます。
「何を」、つまり教育訓練内容の根幹は、「1、意識づけ教育」「2、技能教育」「3、マナー教育」の3つです。意識付け教育とは、「会社の方針」「CS(顧客満足)」や「仕事に対する心構え」などを教えることです。続く「技能教育」や「マナー教育」をスムーズに行うためにも、意識づけ教育は採用早々に行うことがポイントです。
というのは、最初にしっかり意識付けすることにより、続く技能やマナーに関しても、「お客さまのために、こういう理由で、このように作業します」など、理由と目的を明確にした教育が可能になるからです。
なお、パート社員に対する教育は、OJT(On the Job Training=職場内訓練)が基本となります。文字どおり日常業務を通じて上司や先輩が行う教育で、仕事をしながらの実地訓練となり「場面ごとに」「具体的に」教えられるため、パート社員に理解してもらいやすいからです。
一方、教育には、OFF-JT(Off the Job Training =職場外訓練)もあり、多くの場合、教わる側を一堂に集めて行うセミナーや研修を意味します。多くの人に一斉に同じ内容を伝えられるため、ビジネスマナーなどを職場全体に浸透させたい場合に効果的です。
言わずもがなのことではありますが、労働安全衛生法では、雇用形態にかかわらず、すべての労働者について、雇入れ時や作業内容の変更時に安全衛生教育を行うよう、事業者に義務を課しています(罰則もあります。)。パート社員の採用時や作業内容の変更時には安全衛生教育を実施しましょう。
賃金制度
パート社員を戦力化したいなら、賃金制度は職務内容や評価に応じたものにすべきでしょう。適正な評価は、パート社員のやる気を高め、本人の成長を促します。
パートタイム・有期雇用労働法は、パート社員や有期雇用労働者がその能力を一層有効に発揮することができる雇用環境を整備するとともに、多様な雇用形態・就業形態で働く人々がそれぞれの意欲や能力を十分に発揮し、その働きや貢献に応じた待遇を得ることのできる「公正な待遇の実現」を目指しています。そして、パートタイム・有期雇用労働法8条や9条に該当しない場合であっても、事業主は、正社員との均衡を考慮しつつ、その雇用するパート社員の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し、その賃金を決定するように努めるものとするとしています(第10条)。
評価に応じた賃金制度を取り入れるには、パート社員の「評価表」を作ることから始めます。評価表を作ることで、パート社員全員を一定の基準で評価できます。
評価表は、いくつかの要素で構成されるのが普通です。この構成要素は、企業によって異なります。というのは、評価表は各企業が「パート社員に求めるもの」の一覧表であるからです。
例えばスポーツクラブで、受付業務のためにパート社員を雇っている場合と、メーカーで部品の組み立て作業をしてもらう場合では、必要な知識も、実際に行う作業の中味も、そこで求められるものも違います。
スポーツクラブの受付では明るく臆せずお客さまにあいさつできたり、いつも笑顔でいられたり、混雑時でも慌てずに対応できる臨機応変さが評価されますが、部品の組み立て作業なら、細かな作業を手際良く間違いなくこなすことや集中力などが評価されます。
一方、仕事の内容によらず、すべてのパート社員に求めることもあるでしょう。例えば職場のルールを守ることや、仕事に意欲的かつ前向きに取り組む姿勢などです。これらもすべて、評価表に組み込みます。もっと具体的に、「改善提案を月に10件以上出す」ことを、評価基準として明示している会社もあります。
評価表の作成は、パート社員が行っている業務の一覧表を作ることであり、その難易度を明確にすることであり、さらには「自社が大切にすること」を明らかにすることでもあるのです。
