パート社員を雇う際のルールを知りたい
職場におけるハラスメント防止措置
セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、パワーハラスメントなど、職場におけるハラスメントは、労働者の尊厳や誇りを傷つけるばかりでなく、生産性の低下や人材の流出などという形で、企業経営にも大きな影響を及ぼします。事業主はこれらの防止措置を講じるとともに、相談窓口の設置が義務付けられています。パート社員も対象となります。
職場におけるセクシュアルハラスメントとは(男女雇用機会均等法11条)
職場におけるセクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動によって、それに対応する労働者が仕事をするうえで一定の不利益を被ったり、就業環境が悪化したりすることをいいます。
妊娠・出産、産休、育児休業、介護休業等の申出、取得などを理由とするハラスメント(いわゆるマタハラ、ケアハラ)
事業主は、職場で行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前・産後休業を請求・休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって省令で定める者に関する言動により女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(男女雇用機会均等法11条の3)。
また、事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません(育児介護休業法25条)。
これらはパート社員にも適用されます。
職場におけるパワーハラスメント
職場におけるパワーハラスメントとは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当の範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、の3つの要素を満たすものとされています。
使用者は、職場のパワーハラスメントを許さないことを示し、パワーハラスメントの防止の重要性を従業員に教育し、また、実態を把握し、問題があったときに迅速適正に解決できる仕組みを整備する必要があります。この職場のパワーハラスメント防止措置等については、パート社員にも適用されます。
パワーハラスメントの6つの類型
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
職場のハラスメントに関し事業主が雇用管理上講ずべき措置
事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
(1)ハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
(注)「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために講ずべき措置」は上記に加えて、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動が職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景になり得ることと、制度等の利用ができることを明確化すること。
(2)ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
(4)相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること。
職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
(5)事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
(6)事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
(7)事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
(8)再発防止に向けた措置を講ずること 。
(注)「セクシュアルハラスメントを防止するために講ずべき措置」に関しては、行為者が他の事業主が雇用する労働者や他の事業主である場合、他の事業主に措置への協力を求めることも含まれます。
併せて講ずべき措置
(9)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること。
(10)事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
マタニティハラスメントの原因や背景となる要因解消のための措置業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること(派遣労働者にあっては派遣元事業主に限る)。
自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関して行うことが望ましい取組
職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化する際に、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者、個人事業主などのフリーランス・インターンシップ中の者、教育実習生などの労働以外の者に対しても、同様の方針を示すこと。これらの者についても、雇用管理上の措置全体を参考にしつつ相談対応等に努めること。
カスタマーハラスメントの防止
カスタマーハラスメントとは、顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるものを指します。 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第6号)では、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に関して、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が定められました。
厚生労働省では、令和4年2月25日に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成して、事業主に、相談体制の整備、メンタルヘルス相談などの被害者対応、マニュアル作成などの被害防止の取り組みを求めています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
なお、厚生労働省の「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」は令和6年に報告書を公表しました。カスタマーハラスメント・就活等セクハラについて対策を講じること等を示しています。報告書では、カスタマーハラスメントを、@ 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと、A社会通念上相当な範囲を超えた言動であること、B労働者の就業環境が害されること、の3つの要素を充たすものと整理しています。Aの「社会通念上相当な範囲を超えた言動」か否かの判断については、「言動の内容」及び「手段・態様」に着目し、総合的に判断するとしています。今後、法改正に向けた動きが予定されています。
くわえて、東京都では、公正かつ持続可能な社会の実現に寄与するため、カスタマー・ハラスメントの防止に関し、基本理念を定め、東京都、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策の基本的な事項を定める条例を制定しました(令和7年4月1日施行)。条例に基づき、令和6年12月25日に「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」を策定・公表しました。
条例第2条第5号において、「カスタマー・ハラスメント」とは、「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」としています。条例第9条では、「事業者」が果たすべき責務を規定し、第14条では、その取組として「指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。」と規定しています。
条例
https://www.tokyoto-koho.metro.tokyo.lg.jp/files/koho/y2024/55.pdf
ガイドライン
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharashishin0612.pdf