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2-3 労使協定方式(派遣法30条の4)

(1)労使協定方式のメリット

派遣元事業主が、労使協定を締結した場合には、労使協定に基づき派遣労働者の待遇を決定することで、計画的な教育訓練や職務経験による人材育成を経て、段階的に待遇を改善するなど、派遣労働者の長期的なキャリア形成に配慮した雇用管理を行うことができるというメリットがあります。

(2)労使協定の締結方法

①書面によること…書面によらずに協定した場合には、「労使協定方式」は適用されず、「派遣先均等・均衡方式」が適用されます。

②過半数労働組合又は過半数代表者との間で締結すること…過半数代表者は、派遣労働者を含む全ての労働者から選出されます。なお適切な選出手続を経て選出された過半数代表者と締結された労使協定でなければ、労使協定方式は適用されず、「派遣先均等・均衡方式」が適用されます。

(3)労使協定の対象とならない待遇

派遣先に義務付けられている派遣法40条2項の教育訓練及び利用の機会の付与が義務付けられている派遣法40条3項の福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)は労使協定の対象とはなりません。これらの待遇については、派遣先に雇用される通常の労働者との間に均等・均衡待遇を確保しなければ実質的な意義を果たすことができないため、労使協定の対象となる待遇から除いているのです。

そのため派遣元事業主は、労使協定方式であっても、上記教育訓練、福利厚生施設については、派遣先の通常の労働者との均等・均衡を確保するために、派遣先から教育訓練・福利厚生施設に関する情報を入手し、必要があれば派遣元が派遣労働者に対し教育訓練等を実施する義務があります。

派遣先に上記待遇について実施義務があるからといって、派遣元も、派遣先の通常の労働者との間の均等・均衡の義務を免れるものではないことに注意が必要です。

(4)労使協定に定める事項

過半数代表者と派遣元事業主との間で、次の①~⑥のすべての事項を定め、実行することにより、労使協定方式が適用されます。下記②~⑤について労使協定に定めた事項を遵守しない場合には、「労使協定方式」は適用されず、「派遣先均等・均衡方式」となります。

①労使協定の対象となる派遣労働者の範囲…客観的な基準により範囲を定めることが必要です。一つの派遣元事業主において、労使協定方式により待遇を決定する者と、均等・均衡方式により待遇を決定する者が併存することはあり得ます。

<派遣労働者の範囲の定めの例>

②賃金の決定方法…次のアおよびイの要件を満たさなければなりません。

ア 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金(以下「一般賃金」という。)の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金額となるものであること。具体的には、派遣先の事業所その他派遣就業の場所の所在地を含む地域において派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者であって、当該派遣労働者と同程度の能力および経験を有する者の平均的な賃金の額と同等以上であることが必要です。この比較対象となる一般賃金の具体的な額、同等以上の確認方法等については、厚生労働省職業安定局長より各都道府県労働局長あてに、統計調査等を活用して毎年通知されます。厚生労働省ウェブサイト「派遣労働者の同一労働同一賃金について」に掲載されていますので参考にして下さい。

イ 派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等の向上があった場合に賃金が改善されるものであること。これは、派遣労働者の待遇について、派遣先に雇用される通常の労働者との比較ではなく、様々な派遣先に雇用される通常の労働者一般との比較において一定の水準を確保しようとするものです。
なお職務の内容に密接に関連しない「賃金」(例えば、通勤手当、家族手当、別居手当、子女教育手当等)については、職務の内容、職務の成果等に応じて決定することになじみませんので、イの要件を満たす必要はありません。

③公正な評価に基づく賃金の決定…派遣労働者の職務の内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定することです。

<評価の例>

④賃金を除く待遇の決定方法…労使協定の対象とならない待遇(派遣法40条2項の教育訓練および利用の付与が義務付けられている派遣法40条3項の福利厚生施設)および賃金を除く待遇の決定方法は、派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く)の待遇との間において、当該派遣労働者および通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容および配置の変更の範囲、その他の事情のうち、当該待遇の性質および当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違が生じることのないものでなければなりません。

⑤段階的かつ体系的な教育訓練の実施…教育訓練計画に基づき、段階的かつ体系的に実施されるものでなければなりません。

⑥その他の協定事項

ア 有効期間…2年以内が望ましいです。

イ 労使協定の対象となる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合は、その理由を記載すること…具体的な理由として、例えば「派遣先が変更される頻度が高いことから、中長期的なキャリア形成を行い所得の不安定化を防ぐため」と記載することが考えられます。

ウ 特段の事情がない限り、一の労働契約の期間中に派遣先の変更を理由として、協定の対象となる派遣労働者であるか否かを変えようとしないこと。

(5)労使協定方式における派遣労働者の待遇ごとの具体例

労使協定方式における派遣労働者に対する待遇と派遣先に雇用される労働者との間の待遇差は、労使協定で賃金決定方法等を定めなければなりませんし、労使協定で定めた内容のとおりに履行しなければなりませんので、問題になる例は少ないと考えます。以下は、ガイドラインで掲示する例を参考に解説します。

以下次のように表示します。

①賃金

労働者派遣法第30条の4第1項第2号イにおいて、協定対象派遣労働者の賃金の決定の方法については、同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものでなければならないこととされています。

また、同号ロにおいて、その賃金の決定の方法は、協定対象派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があった場合に賃金が改善されるものでなければならないこととされています。

さらに、同項第3号において、派遣元事業主は、この方法により賃金を決定するに当たっては、協定対象派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定しなければならないこととされています。

②福利厚生1…福利厚生施設(給食施設、休憩室及び更衣室をいう)

派遣先は、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の事業所で働く協定対象派遣労働者には、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の福利厚生施設の利用を認めなければなりません。なお、派遣元事業主についても、労働者派遣法第30条の3の規定に基づく義務を免れるものではありません。

③福利厚生2…転勤者用社宅

派遣元事業主は、派遣元事業主の雇用する通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす協定対象派遣労働者には、派遣元事業主の雇用する通常の労働者と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければなりません。

④福利厚生3…慶弔休暇並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障

派遣元事業主は、協定対象派遣労働者にも、派遣元事業主の雇用する通常の労働者と同一の慶弔休暇の付与並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障を行わなければなりません。

例1(問題にならない例…出勤日数が同じ場合と違う場合)

においては、慶弔休暇について、先の雇用する通常の労働者であると同様の出勤日が設定されている協定対象派遣労働者に対して、と同様に慶弔休暇を付与しています。一方、週2日の勤務の協定対象派遣労働者であるに対しては、勤務日の振替での対応を基本としつつ、振替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与しています。

⑤病気休職

派遣元事業主は、協定対象派遣労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、派遣元事業主の雇用する通常の労働者と同一の病気休職の取得を認めなければなりません。また、有期雇用労働者である協定対象派遣労働者にも、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、病気休職の取得を認めなければなりません。

例2(問題とならない例)

においては、労働契約の期間が1年である有期雇用労働者であり、かつ、協定対象派遣労働者であるについて、病気休職の期間は労働契約の期間が終了する日までとしています。

⑥法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く)であって、勤続期間に応じて取得を認めているもの

法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く)であって、勤続期間に応じて取得を認めているものについて、派遣元事業主は、派遣元事業主の雇用する通常の労働者と同一の勤続期間である協定対象派遣労働者には、派遣元事業主の雇用する通常の労働者と同一の法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く)を付与しなければなりません。なお、期間の定めのある労働契約を更新している場合には、当初の労働契約の開始時から通して勤続期間を評価することを要します。

例3(問題とならない例)

においては、長期勤続者を対象とするリフレッシュ休暇について、業務に従事した時間全体を通じた貢献に対する報償という趣旨で付与していることから、通常の労働者であるに対し、勤続10年で3日、20年で5日、30年で7日の休暇を付与しています。は、より所定労働時間の短い(例えばの半分)労使協定対象派遣労働者であるに対し、所定労働時間に比例した日数を付与(勤続10年で1.5日、20年で2.5日、30年で3.5日)しています。

⑦教育訓練であって、現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施するもの

教育訓練であって、派遣先が、現在の業務の遂行に必要な能力を付与するために実施するものについて、派遣先は、派遣元事業主からの求めに応じ、派遣先に雇用される通常の労働者と業務の内容が同一である協定対象派遣労働者には、派遣先に雇用される通常の労働者と同一の教育訓練を実施する等必要な措置を講じなければなりません。

派遣元事業主についても、労働者派遣法第30条の3(不合理な待遇の禁止等)の規定に基づく義務を免れるものではありません。

また、協定対象派遣労働者と派遣元事業主が雇用する通常の労働者との間で業務の内容に一定の相違がある場合においては、派遣元事業主は、協定対象派遣労働者と派遣元事業主の雇用する通常の労働者との間の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の相違に応じた教育訓練を実施しなければならなりません。

労働者派遣法第30条の2(段階的かつ体系的な教育訓練等)第1項の規定に基づき、派遣元事業主は、協定対象派遣労働者に対し、段階的かつ体系的な教育訓練を実施しなければなりません。

⑧安全管理に関する措置及び給付

派遣元事業主は、派遣元事業主の雇用する通常の労働者と同一の業務環境に置かれている協定対象派遣労働者には、派遣元事業主の雇用する通常の労働者と同一の安全管理に関する措置及び給付をしなければなりません。

派遣先及び派遣元事業主は、労働者派遣法第45条(労働安全衛生法の適用に関する特例等)等の規定に基づき、協定対象派遣労働者の安全と健康を確保するための義務を履行しなければなりません。

(6)労使協定の記載例

労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定例を下記に掲示しましたので参考にして下さい。

なお下記記載例は、厚生労働省HP掲載のものに分かりやすくするために執筆者が手を加えたものです。「別表」等添付資料は略していますので、詳細は厚生労働省HP等で最新のもの、業種に合ったものを参考にして下さい。

労 使 協 定

〇〇人材サービス株式会社(以下「甲」という。)と〇〇人材サービス労働組合(以下「乙」という。)は、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。

第1条(協定の対象となる派遣労働者の範囲)

本協定は、派遣先でプログラマーの業務に従事する従業員(以下「対象従業員」という。)に適用する。

  • 2 対象従業員については、派遣先が変更される頻度が高いことから、中長期的なキャリア形成を行い所得の不安定化を防ぐ等のため、本労使協定の対象とする
  • 3 甲は、対象従業員について、一の労働契約の契約期間中に、特段の事情がない限り、本協定の適用を除外しないものとする。

第2条(賃金の構成)

  • 対象従業員の賃金は、基本給、賞与、時間外労働手当、深夜・休日労働手当、通勤手及び退職手当とする。

第3条(賃金の決定方法)

対象従業員の基本給、賞与及び手当の比較対象となる「同種の業務に従事する労働者の平均的な賃金の額」は、次の各号に掲げる条件を満たした別表〇のとおりとする。

  • (1) 比較対象となる同種の業務に従事する一般の労働者の職種は、〇年〇月〇日「〇年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める『同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」等について』(以下「通達」という。)に定める「〇年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)の「プログラマー」とする。
  • (2) 地域調整については、派遣先の事業所所在地が△内に限られることから、通達別添〇に定める「地域指数」の「△」を用いるものとする。
  • (3) 通勤手当については、基本給、賞与及び手当とは分離し実費支給とし、第6条のとおりとする。

第4条(対象従業員の基本給、賞与、手当)

対象従業員の基本給、賞与及び手当は、次の各号に掲げる条件を満たした別表〇のとおりとする。

  • (1) 別表〇の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額と同額以上であること
  • (2) 別表〇の各等級の職務と別表1の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額との対応関係は次のとおりとすること
    Aランク:10年 Bランク:3年 Cランク:0年
  • 2 甲は、第9条の規定による対象従業員の勤務評価の結果、同じ職務の内容であったとしても、その経験の蓄積及び能力の向上があると認められた場合には、基本給額の1~3%の範囲で能力手当を支払うこととする。また、より高い等級の職務を遂行する能力があると認められた場合には、その能力に応じた派遣就業の機会を提示するものとする。

第5条(時間外手当等)

対象従業員の時間外労働手当、深夜・休日労働手当は、社員就業規則第〇に準じて、法律の定めに従って支給する。

第6条(通勤手当)

対象従業員の通勤手当は、通勤に要する実費に相当する額を支給する。

第7条(退職手当の比較対象)

対象従業員の退職手当の比較対象となる「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」は、次の各号に掲げる条件を満たした別表〇とおりとする。

  • (1) 退職手当の受給に必要な最低勤続年数:別添通達に定める「〇年中小企業の賃金・退職金事情」(東京都)の「退職一時金受給のための最低勤続年数」において、最も回答割合の高かったもの(自己都合退職及び会社都合退職のいずれも3年)
  • (2)退職時の勤続年数ごと(3年、5年、10年、15年、20年、25年、30年、33年)の支給月数:「〇年中小企業の賃金・退職金事情」の大学卒の場合の支給率(月数)に、同調査において退職手当制度があると回答した企業の割合をかけた数値として通達に定めるもの

第8条(退職手当)

対象従業員の退職手当は、次の各号に掲げる条件を満たした別表〇とおりとする。ただし、退職手当制度を開始した〇年以前の勤続年数の取扱いについては、労使で協議して別途定める。

  • (1) 別表〇に示したものと比べて、退職手当の受給に必要な最低勤続年数が同年数以下であること
  • (2) 別表〇に示したものと比べて、退職時の勤続年数ごとの退職手当の支給月数が同月数以上であること

第9条(賃金の決定に当たっての評価)

基本給の決定は、半期ごとに行う勤務評価を活用する。勤務評価の方法は社員就業規則第〇条に定める方法を準用し、その評価結果に基づき昇給の範囲を決定する。

2 賞与の決定は、半期ごとに行う勤務評価を活用する。勤務評価の方法は社員就業規則第○条に定める方法を準用し、その評価結果に基づき賞与額を決定する。

第10条(賃金以外の待遇)

教育訓練(次条に定めるものを除く。)、福利厚生その他の賃金以外の待遇については正社員と同一とし、社員就業規則第〇条から第〇条までの規定を準用する。

第11条(教育訓練)

労働者派遣法第30条の2に規定する教育訓練については、労働者派遣法に基づき別途定める「○○社教育訓練実施計画」に従って、着実に実施する。

第12条(その他)

本協定に定めのない事項については、別途、労使で誠実に協議する。

第13条(有効期間)

本協定の有効期間は、〇年〇月〇日から〇年〇月〇日までの〇年間とする。

2 本有効期間終了後に締結する労使協定についても、労使は、労使協定に定める協定対象派遣労働者の賃金の額を基礎として、協定対象派遣労働者の公正な待遇の確保について誠実に協議するものとする。

○〇年○月〇日

甲 取締役人事部長  ○〇○〇 印

乙 執行委員長    ○〇○〇 印

(7)労使協定の内容の周知

派遣元事業主は、派遣労働者に限らず派遣元事業主が雇用する全ての労働者に対し、次の方法で周知しなければなりません。

ア 書面の交付の方法

イ 次のいずれかによることを労働者が希望した場合における当該方法

ウ 電子計算機に備えられたファイル、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ労働者が当該記録の内容を常時確認できる方法

エ ア又はイの方法にあわせて、派遣元事業主の各事業所の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける方法

(8)行政機関への報告

労使協定を締結した派遣元事業主は、事業報告書に労使協定を添付するとともに、協定対象派遣労働者の職種ごとの人数及び職種ごとの賃金額の平均額を報告しなければなりません。