2-2-2 同一労働・同一賃金をめぐる最高裁判所判例
「不合理な待遇差」か「不合理でない待遇差」かを判断する上で、実務的に大きな影響を与える重要な最高裁判所判例が複数出ています。派遣労働者に関係する最高裁判所判例はまだ出ていませんが、派遣関係も原則として同じように考えることができます。先例的価値が高いと思われますので、以下に紹介します。
①ハマキョウレックス事件(最判平30.6.1)
【事案の概要】
運送会社でドライバーとして働く契約社員(有期雇用労働者)と職務内容が同一である正社員(通常の労働者)のドライバーとの間の待遇差が問題となりました。
【裁判所の判断】
最高裁判所は、下記6つの手当について、次のように判断しました。なお本事件は、大阪高等裁判所に差戻され、同裁判所で最高裁判所と同趣旨の判決が平成30年12月21日出て、確定しました。
手当名 | 判断 | 手当支給の目的 | 判決理由 |
---|---|---|---|
ⅰ 通勤手当 | 不合理である | 通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給 | 労働契約期間に定めがあるか否かによって通勤に必要な費用が異なるわけではない。 正社員と契約社員の職務の内容・配置の変更の範囲が異なることは、通勤に必要な費用の多寡には直接関係がないので不合理である。 |
ⅱ 皆勤手当 | 不合理である | 出勤する運転手を一定数確保することから、皆勤を奨励する趣旨で支給 | 正社員と契約社員の職務の内容であることから、出勤する者を確保する必要性は同じであり、将来の転勤や出向の可能性等の違いにより異なるものではないので不合理である。 |
ⅲ 給食手当 | 不合理である | 労働者の食事に係る補助として支給 | 勤務時間中に食事をとる必要がある労働者に対して支給されるもので、正社員と契約社員の職務の内容が同じである上、職務の内容・配置の変更の範囲の違いと勤務時間中に食事をとる必要性には関係がないので不合理である。 |
ⅳ 作業手当 | 不合理である | 特定の作業を行った対価として作業そのものを金銭的に評価して支給 | 正社員と契約社員の職務の内容が同じあり、作業に対する金銭的評価は、職務の内容・配置の変更の範囲の違いによって異なるものではないので不合理である。 |
ⅴ無事故手当 | 不合理である | 優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得を目的として支給 | 正社員と契約社員の職務の内容が同じあり、安全運転及び事故防止の必要性は同じ。将来の転勤や出向の可能性等の違いにより異なるものではないので不合理である。 |
ⅵ 住宅手当 | 不合理ではない | 労働者の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給 | 正社員は転居を伴う配転が予定されており、契約社員よりも住宅に要する費用が多額となる可能性があるので不合理ではない。 |
②長澤運輸事件(最判平30.6.1)
【事案の概要】
運送会社でドライバーとして働き、定年後に再雇用された嘱託社員(有期雇用労働者)が、職務の内容が同じである正社員(通常の労働者)のドライバーとの間の待遇差が問題となりました。
【裁判所の判断】
最高裁判所は、下記5つの手当について、次のように判断しました。
手当名 | 判断 | 手当支給の目的 | 判決理由 |
---|---|---|---|
ⅰ 精勤手当 | 不合理である | 労働者に対し、休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給 | 職務の内容が同一である以上、両者の間で、その皆勤を奨励する必要性に違いはないので不合理である。 |
ⅱ時間外手当 | 不合理である | 労働者の時間外労働等に対して支給 | 嘱託社員に精勤手当を支給しないことは不合理であるとの判断を踏まえ、時間外手当の計算の基礎に精勤手当を含めないという違いは不合理である。 |
ⅲ 住宅手当 | 不合理ではない | 労働者の住宅費の負担に対する補助として支給 | 正社員は幅広い世代の労働者が存在する一方、嘱託乗務員は老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、それまでも調整給を支給されているので不合理ではない。 |
ⅳ 家族手当 | 労働者の家族を扶養するための生活費として支給 | ||
ⅴ 役付手当 | 不合理ではない | 正社員の中から指定された役付者であることに対して支給 | 正社員のうち役付者に対して支給されるものであり、年功給、継続給的性格のものではないので不合理ではない。 |
③大阪医科大学事件(最判令2.10.13)
【事案の概要】
大学附属病院等を運営している学校法人で秘書業務に従事していたアルバイト(有期労働契約)職員に対し、無期労働契約を締結している正職員に支給している賞与と私傷病による欠勤中の賃金を支給しない待遇差が問題となりました。
【裁判所の判断】
最高裁は、次のような理由で、本件待遇差は不合理ではないと判断しました。
ア 賞与
- アルバイト職員の業務の内容は相当軽易であり、正職員と相違がある。
- アルバイト職員の人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたが、正職員は就業規則上業務命令により人事異動を命ぜられる可能性がある。
- アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられており、これは労働契約法20条の「その他の事情」として考慮するのが相当である。
イ 私傷病による欠勤中の賃金支給
この制度は、正職員が長期に渡り継続して就労することが期待されており、その生活保障を図り、雇用を維持・確保する目的があるのに対し、アルバイト職員については長期雇用を前提とした勤務を予定していない。
④メトロコマース事件(最判令2.10.13)
【事案の概要】
東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事している有期労働契約社員に対し、正規社員に支給している退職金を支給しない待遇差が問題となりました。
【裁判所の判断】
最高裁は、次のような理由で、本件待遇差は不合理ではないと判断しました。
- 両者の業務内容はおおむね共通するが、正社員は、販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって業務を担当する
- 配置転換を命じられる等、職務内容に相違がある
- 有期労働契約社員に対し、試験による登用制度を設けており、これは労働契約法20条の「その他の事情」として考慮するのが相当である
⑤日本郵便東京事件、日本郵便大阪事件、日本郵便佐賀事件(最判令2.10.15)
(同日に同法廷・同裁判官により下された判決のためまとめて紹介します。)
【事案の概要】
郵便の業務を担当する無期の正規社員に与えている手当や有給休暇を、同じく郵便の業務を担当する有期の時給制契約社員(原告は、いずれも契約更新を繰り返している社員)に与えない待遇差が問題となりました。
【裁判所の判断】
最高裁は、次のような理由で、本件待遇差は不合理であると判断しました。
ア 年末年始勤務手当
最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間に業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて対価として支給される手当であり、業務の内容やその難度等に関わらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。
手当の性質・支給要件・金額に照らせば、手当支給の趣旨は、時給制契約社員にも妥当するものというべきであり、与えないのは不合理である。
イ 年始期間の勤務に対する祝日給
最繁忙期であるために年始期間における勤務の代償の趣旨で支給される手当であり、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者も存するなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている。このことから、祝日給を支給する趣旨は、時給制契約社員にも妥当するものというべきであり、与えないのは不合理である。
ウ 扶養手当
生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、継続的な雇用を確保する目的の手当であり、扶養親族があり、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は、時給制契約社員にも妥当するというべきであり、支給しないのは不合理である。
エ 病気休暇(契約社員には無給の休暇のみ付与)
継続的な勤務が見込まれる労働者に生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、継続的な雇用を確保する目的の休暇であり、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は、時給制契約社員にも妥当するというべきであり、有給の病気休暇を与えないのは不合理である。
オ 夏期冬期休暇
年休等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図る目的の休暇であり、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は正規社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。契約社員は、契約期間が6か月以内とされるなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって、夏期冬期休暇を与える趣旨は、時給制契約社員にも妥当するというべきであり、休暇を与えないのは不合理である。