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第3 派遣期間制限の見直しと雇用安定措置

1 期間制限の見直し

 改正前は、いわゆる「26業務」への労働者派遣には期間制限がありませんでした。それ以外の業務については、原則1年とし、過半数組合等からの意見聴取を行った場合に限り最長3年まで延長を認めていました。しかし、26業務に該当するか否かについての判断基準が分かりにくい等の問題がありました。改正法は、26業務を廃止し、期間制限の例外事由に該当しない労働者派遣については、すべての業務で、以下2の(1)・(2)の2つの期間制限が適用されることになりました。

2 2つの期間制限

(1) 派遣先事業所単位の期間制限

ア 3年限度が原則
 派遣先の同一の「事業所」(注)に対し派遣できる期間(派遣可能期間)は、原則として3年が限度です。改正法施行日以後、最初に新たな期間制限の対象となる労働者派遣を行った日が、3年の派遣可能開始期間の起算日になります。それ以降、3年までの間に派遣労働者が交替した場合や、他の労働者派遣契約に基づく労働者派遣を始めた場合でも、派遣先可能期間の起算点は変わりません。したがって、派遣可能期間の途中から開始した労働者派遣の期間は、原則として、その派遣可能期間の終了までとなります。

注:「事業所」の定義については、以下の(ア)~(ウ)の観点から、実態に即して「事業所」に該当するか否かが判断されます。
(ア)工場、事務所、店舗等、場所的に独立していること
(イ)経営の単位として人事・経理・指導監督・働き方などがある程度独立していること
(ウ)施設として一定期間継続するものであること等

イ 3年を超える場合
 派遣先が3年を超えて派遣を受け入れようとする場合は、派遣先の事業所の過半数労働組合(過半数労働組合がない場合は「過半数代表者」(注))からの意見を聴く必要があります。労働組合が支店ごとではなく企業全体で組織されている場合などであっても、事業所の労働者の過半数が加入している労働組合が、意見を聴く相手となります。意見を聴いた結果、過半数労働組合等から異議があった場合、派遣先は対応方針等を説明する義務があります。これは、労使自治の考え方に基づき、派遣労働者の受入れについて派遣先事業所内で実質的な話合いができる仕組みを構築することが目的であり、派遣先は、意見聴取や対応方針等の説明を誠実に行うよう努めなければなりません。なお、最初の派遣労働者の受入れの際に、派遣先は、過半数労働組合等に受入れの方針を説明することが望ましいです。

注:「過半数代表者」は、次の(ア)、(イ)の2要件を満たす必要があります。 (ア) 労働基準法第41条第2号の「監督又は管理の地位にある者」でないこと。
(イ) 投票、挙手等の民主的な方法によって選出された者であること。

ウ 3年を超える場合の意見聴取手続

(ア) 意見聴取期間の制限

派遣先は、事業所単位の期間制限の抵触日の1か月前(注)までに、事業所の過半数労働組合から意見を聴かなければなりません。派遣先指針は「十分な熟慮期間を設ける」と規定していますので、期間制限の到来する直前での意見聴取はできる限り避けることが望ましいです。〈派遣先指針第2‐15‐⑵〉

注:「意見聴取期間の制限」についての具体例 当該事務所における有期雇用労働者の受入れ開始日を平成27年9月30日とすると、その日から起算して3年を超えることになる最初の日は平成30年9月30日です。この例では、1か月前の日である平成30年8月31日までに意見聴取および期間延長の決定を行わなければなりません。

(イ) 文書による通知義務

派遣先が意見を聴く際は、次の事項を文書で過半数労働組合等に通知しなければなりません。
A) 派遣可能期間を延長しようとする事業所
B) 延長しようとする期間 

(ウ) 対応方針等の説明義務

派遣先は、意見を聴いた過半数労働組合等が「異議」(注)を述べたときは、延長しようとする派遣可能期間の終了日までに、次の事項について説明しなければなりません。(派遣法第40条の2第5項第5号)
A) 派遣可能期間の延長の理由及び延長の期間
B) 異議への対応方針

注:「異議」の意味について、業務取扱要領は、「派遣可能期間を延長することに反対する意見のみならず、延長する期間を短縮する旨の意見や、例えば今回かぎり延長を認めるといった意見や、受入派遣労働者数を減らすことを前提に延長を認めるといった条件付賛成の旨の意見も含まれる」としています。

(エ) 異議意見の尊重等の努力義務

派遣先は、対応方針の説明について、前記(ウ)の説明に当たっては、派遣法の趣旨にのっとり、誠実にこれらを行うよう努めなければならなりません。(派遣法40条の2第5項第6号)。そして派遣先指針は、1回目の延長に係る意見聴取における過半数労働組合等から異議が表明された場合は、当該意見を十分に尊重するよう努めること、さらに2回目の延長に係る意見聴取において再度、過半数労働組合等から異議が表明された場合は、当該意見を十分に尊重し、派遣可能期間の延長の中止や期間の短縮、受入れ人数の削減等の対応方針を探ることを検討した上で、その結論をより一層丁寧に説明することを定めています。〈派遣先指針第2‐15‐⑶・⑷〉。

(オ) 書面化、保存、周知義務

派遣先は、意見を聴いた後、次の事項を書面に記載し、延長しようとする派遣可能期間の終了後3年間保存し、また事業所の労働者に周知しなければなりません。
A) 意見を聴いた過半数労働組合の名称または過半数代表者の氏名
B) 過半数労働組合等に書面通知した日及び通知した事項
C) 意見を聴いた日及び意見の内容
D) 意見を聴いて、延長する期間を変更したときは、その変更した期間

(カ) 派遣可能期間の再延長の場合の意見聴取義務

派遣可能期間を延長できるのは3年間までです。延長した派遣可能期間を再延長しようとする場合は、改めて過半数労働組合等から意見を聴く必要があります。

(キ) 派遣可能期間の延長と個人単位の期間制限との関係

派遣可能期間を延長した場合でも、個人単位の期間制限を超えて、同一の有期雇用の派遣労働者を引き続き同一の組織単位に派遣することはできないため、注意が必要です。個人単位の期間制限については、次の(2)以下で説明します。

(2) 派遣労働者個人単位の期間制限

同一の派遣労働者を派遣先の事業所における同一の「組織単位」(注)に対し派遣できる期間は、3年が限度です。(派遣法第40条の3)組織単位を変えれば、同一の事業所に、引き続き同一の派遣労働者を(3年を限度として)派遣することができますが、事業所単位の期間制限による派遣可能期間が延長されていることが前提となります(この場合でも、派遣先は同一の派遣労働者を指名するなどの特定目的行為を行わないようにする必要があります)。また派遣労働者の従事する業務が変わっても、同一の組織単位内である場合は、派遣期間は通算されます。

注:「組織単位」とはA業務としての類似性、関連性があり、B組織の長が業務配分、労務管理上の指揮監督権限を有するものです。一般的には、いわゆる「課」レベルを想定するものとされていますが、名称のいかんを問わず実態に即して判断されます。

3 期間制限の例外

(1)派遣元で無期雇用されている派遣労働者を派遣する場合。

(2)派遣元で有期雇用されている派遣労働者ですが、以下ア~エのいずれかに該当する場合。

ア 
60歳以上の派遣労働者を派遣する場合。
イ 
終期が明確な有期プロジェクト業務に派遣労働者を派遣する場合。法改正前は上限を3年としていましたが、業務取扱要領の改正により「予め終期が明確であれば期間の上限を設けない」ものとされました。
ウ 
日数限定業務(1か月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下であるもの)に派遣労働者を派遣する場合。
エ 
産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の業務に派遣労働者を派遣する場合。

4 クーリング期間

事業所単位の期間制限、個人単位の期間制限の両方にクーリング期間の考え方が適用されます。

(1)事業所単位のクーリング期間

派遣先の事業所ごとの業務について、労働者派遣の終了後に再び派遣する場合、派遣終了と次の派遣開始の間の期間が3か月を超えないときは、労働者派遣は継続しているものとみなされます。同一の事業所内で1人でも期間制限の対象となる有期雇用派遣労働者を受け入れているときにはクーリング期間としてカウントされません。派遣先が事業所で3年間派遣を受け入れた後、派遣可能期間の延長手続を回避することを目的として、クーリング期間を空けて派遣の受入れを継続する行為は、法の趣旨に反するものであり、指導等の対象となります。〈派遣先指針第2‐14‐⑸〉

(2)個人単位のクーリング期間

派遣先の事業所における同一の組織単位ごとの業務について、労働者派遣の終了後に同一の派遣労働者を再び派遣する場合、派遣終了と次の派遣開始の間の期間が3か月を超えないときは、労働者派遣は継続しているものとみなされます。〈派遣先指針第2‐14-⑷〉個人単位の期間制限から逃れるためにクーリング期間を利用した場合は、法の趣旨に反するものであり、指導等の対象となります。

5 雇用安定措置

(1)概要

派遣元事業主は、同一の組織単位に継続して1年以上派遣される見込みがあるなど一定の場合に、派遣労働者の派遣終了後の雇用を継続させるための措置(雇用安定措置)を講じる義務ないし努力義務があります。(派遣法第30条)

(2)雇用安定措置の内容

ア 派遣先へ直接雇用を依頼すること。

対象となる派遣労働者が現在就業している派遣先に対して、派遣終了後に、本人に直接雇用の申し込みをしてもらうよう依頼します。

イ 新たな派遣先を提供すること。

派遣労働者が派遣終了後も就業継続できるよう、新しい派遣先を確保し、派遣労働者に提供します。提供する新しい派遣先は、対象となる派遣労働者の居住地やこれまでの待遇等に照らして合理的なものに限ります。例えば、極端に遠方であったり、賃金が大幅に低下したりするような場合には、措置を講じたものと認められない場合があります。なお対象となる派遣労働者を派遣元事業主が無期雇用とした上で(期間制限の対象外となります)、これまでと同一の派遣先に派遣することも、この措置に該当します。

ウ 派遣元事業主による無期雇用。

派遣元事業主が、対象となる派遣労働者を無期雇用とし、自社で就業させる(派遣労働者以外の働き方をさせる)ものです。

エ その他雇用の安定を図るために必要な措置を取ること。

(ア) 新たな就業の機会を提供するまでの間に行われる有給の教育訓練。
(イ) 紹介予定派遣の対象とし、又は紹介予定派遣に係る派遣労働者として雇い入れること。
(ウ) その他特定有期雇用派遣労働者等の雇用の継続が図られると認められる措置を取ること。〈省令第25条の4、5〉

(3)雇用安定措置の対象者と派遣元事業主の責務の内容

ア 同一の組織単位に継続して「3年間派遣される見込みがある」(注)労働者に対して以下(ア)~(エ)のいずれかの措置を講じる義務があります。(ア)の措置を講じた結果、派遣先での直接雇用に結びつかなかった場合には、派遣元事業主は、(イ)~(エ)のいずれかの措置を追加で講じる義務があります。

(ア)派遣先への直接雇用の依頼(以下「(ア)の措置」)

(イ)新たな派遣先の提供(以下「(イ)の措置」)

(ウ)派遣元事業主による無期雇用(以下「(ウ)の措置」)

(エ)その他雇用の安定を図るために必要な措置(以下「(エ)の措置」)

注:「3年間派遣される見込みのある」とは、労働者派遣契約を締結・更新した際に、同一組織単位に3年間派遣されることが確実となる場合のことです。例えば、3か月更新を反復している場合で、就業継続が2年9か月となった段階で労働者派遣契約と労働契約の次の更新がなされた場合は、アに該当します。但し、派遣元事業主が業務上の必要性棟がないのに、アの義務を逃れるために、意図的に派遣労働者の派遣期間を3年未満とすることは、雇用安定措置の趣旨に反する脱法的な運用であって、義務違反と同視され、指導等の対象となります。繰り返し指導を行っても改善しない場合、労働者派遣事業の許可の更新は認められません。〈派遣元指針第2‐8‐⑵〉

イ 同一の組織単位に継続して1年以上3年未満派遣される見込みがある労働者に対して上記アの(ア)~(エ)のいずれかの措置を講じる努力義務があります。

ウ 上記ア、イ以外で、派遣元事業主に雇用された期間が通算1年以上の労働者に対して上記アの(イ)~(エ)のいずれかの措置を講じる努力義務があります。また雇用安定措置義務または努力義務は、派遣元事業主によって適切に履行されるか、派遣労働者が就業継続を希望しなくなるまで効力が存続します。

なお上記ア~ウのいずれも、労働者本人が継続して就業することを希望する場合に限られます。

(4)雇用安定措置の実施にあたり派遣元事業主が留意すべき事項

ア 継続就業希望の有無等の聴取すること。

キャリア・コンサルティングや面談等の機会を通じて、継続就業の希望の有無及び希望する雇用安定措置の内容を把握するよう留意すべきです。

イ 派遣労働者の希望する措置を講じるよう努めること。

雇用安定措置を講じる際は、本人の意向を尊重し、本人が希望する措置を講じるよう努めなければなりません。特に労働者が派遣先での直接雇用を希望する場合には、派遣先への直接雇用の依頼を行い、直接雇用が実現するよう努めなければなりません。

ウ 措置の着手時期に留意すること。

雇用安定措置を講じる際には、雇用終了の直前ではなく、早期に希望の聴取を行い、十分な時間的余裕をもって措置に着手するよう留意すべきです。〈派遣元指針第2‐8‐⑵〉